機械より先に人を見る
機械より先に人を見る
TRICOTÉが日本の工場と作る理由
ニットの工場を見るとき、僕は機械だけを見ているわけではない。むしろ、その機械と人がどう付き合っているかを見る。今、一緒に仕事をしている国内の工場には、古い機械を現役で使い続けているところが多い。僕は、そういう機械を長く維持している人には、腕のいい職人が多いと感じている。
古い機械は、置いておけば動き続けるわけではない。調整し、手を入れ、状態を見ながら使い続けなければならない。機械の癖を知らなければ、それはできない。僕が惹かれるのは、古いものそのものではない。制約のある機械を前にして、「できない」で終わらず、その先を考えられる人だ。
01 機械の状態から人を見る
新しい機械には、新しい機械の良さがある。性能が上がれば、それまで難しかったことが機械側でできるようになる。一方で、古い機械にはできることの限界がある。だから扱う人には、その機械を理解したうえで、糸や編み方、工程を組み合わせる技術が必要になる。

「この機械では無理です」で終わるのか。「このままでは難しいけれど、こう変えたらできるかもしれない」と考えるのか。僕が工場で見ているのは、たぶんそこだと思う。
制約があるから、別の方法を考える。これは僕自身がデザインするときの感覚ともよく似ている。何でもできるところから選ぶより、条件の中で「じゃあ、どうしよう」と考える。その時間に面白さを感じる。
02 1を投げたら2も3も4も返ってくる
工場と長く付き合えるかどうかは、結局、人だと思っている。もちろん仕事なので、価格やロット、納期の話は必要になる。でも、その数字だけが会話の中心になる相手とは、僕の場合、ものづくりの関係がなかなか深くならなかった。
相性がいいと感じるのは、ものづくりの話を投げたときに、言ったことが一つだけ返ってこない人だ。僕が「こんなのできる?」と一つ投げる。すると、「それなら、こういうこともできるよ」「この方法もある」「こっちを変えたら、もっとこうなるかもしれない」と、二つ、三つ、四つと返ってくる。
そのプラスアルファが、すごく大事だと思っている。僕自身もクライアントワークでは、言われたことだけをそのまま返すのではなく、その先の選択肢まで考えて返すようにしてきた。
工場との仕事でも同じだ。発注したものを正確につくってもらうだけではなく、お互いの知識を持ち寄って、最初には考えていなかったところまで行ける。そうなると、発注と受注というより、キャッチボールに近くなる。
03 「できない」の前に考える
TRICOTÉを始める頃から、僕はいろいろな工場を訪ね、職人さんと話してきた。設備を見ることも大事だったけれど、それ以上に、自分がこれから何をやりたいのかを話した。その話に相手がどう返してくるのかを見ていた。

やらない理由はいくらでもある。機械に負担がかかる。針が傷むかもしれない。今までやったことがない。でも、そこで最初に「無理」が出てくる人と、「こうすればできるかもしれない」が出てくる人では、ものづくりの進み方がまったく違う。

僕は後者の人と長く仕事をしてきた。商売として最低限成立させることは当然必要だ。そのうえで、「さらにこんなこともできるんじゃないか」と話せること。そこまで行けると、仕事が楽しくなる。
04 日本製という言葉だけでは足りない
TRICOTÉが日本でものを作っている理由を、「日本製だから品質がいい」という一言だけで説明するのは少し違うと思っている。僕にとって大きいのは、工場へ行き、機械を見て、職人と話し、試したものを見ながら次を考えられることだ。日本の工場となら、言葉で細かく話せることも大きい。
一つ投げたものに、相手からまた新しい提案が返ってくる。その提案を持ち帰って、こちらでも素材やデザインを考える。そしてまた工場へ戻す。そういう往復から、TRICOTÉの素材や商品は生まれてきた。

だから僕が大事にしているのは、「日本製」という言葉よりも、誰とどう作るかだと思う。機械を理解し、制約を面白がり、自分の技術やアイデアでその先を考える人。僕自身も同じように、一つの答えで終わらず、もう一つ先を考える。そういう人と一緒にものを作れることが、今も日本で作り続けている理由の一つになっている。
写真について
写真はTRICOTÉの写真アーカイブ(2011年に工場で撮影)から選んだ。
本文は本人への取材をもとにしています。





