Article: CANVASのはじまり
CANVASのはじまり
CANVASのはじまり
自分の手で試しながら、デザインを知る
色を変えたり、柄を重ねたり。試しているうちに、自分の好きなものが見つかる。僕がものづくりの中で感じてきた面白さを、誰かにも自分の手で体験してもらえたら。CANVASは、そんなところから考え始めました。

01CHAPTER好きな人が集まる場所
最初は、テキスタイルが好きな人が集まる場所をつくれたらいいなと思っていました。学校のようなものも考えたし、同じものが好きな人とつながれるコミュニティも考えていました。僕がものづくりの中で経験してきたことを、誰かに伝えていけないか。CANVASの始まりには、そういう気持ちがありました。
僕はTRICOTÉのものづくりと並行して、ほかのブランドの商品づくりを手伝うOEMの仕事もしています。相手のブランドで販売する靴下やニットなどを、デザインや仕様を相談しながらつくっていく仕事です。靴下にも、ニットのアイテムにも、それぞれつくるためのルールや制約があって、使う機械によってもできることが違います。まずはその説明をしてから、デザインを考えてもらう。そういう流れが基本なんですが、つくるものが変わるたびに、一人ずつ説明するのは結構大変だったんです。
だったら、そのルールをブラウザ上の仕組みに入れておけないだろうか。相手がその中で自由に操作しているうちに、自然と説明にもなっている。そういう形なら、もっといろんな人に伝えられるかもしれないと思いました。リアルな場所で集まることを考えていたところから、ウェブアプリで体験してもらう方へ、少しずつ考えがつながっていきました。
最初に取り組んだのは、テキスタイルの柄づくりです。僕が長年やってきた仕事の中心でもあるので、まずは自分がしていることを、ルールの中で楽しく試せる形にしてみたかったんです。
02CHAPTER組み合わせることが楽しい
僕がテキスタイルのデザインで一番楽しいと思うのは、組み合わせを考えることです。例えば靴下なら、使う機械や糸を選び、柄や編み方を考えていきます。同じ靴下でも、その組み合わせによって違うものができる。靴下という形の中で、どんなものをつくれるかを探っていくのが面白いんです。
使う機械や糸によって、できることには条件があります。その中で柄や編み方を変えてみると、さっきとは違うものになる。僕自身、その違いを確かめることをずっと楽しんできました。CANVASでも、組み合わせを変えながら試す感覚を体験してもらいたいと思っています。

これまで僕は、つくりたいもののイメージを先に決めて、柄を描き、色や形を調整しながら仕上げることが多かったです。目指すものがあるので、そこに近づけるために何を直すかを考えていく。CANVASでは、そうしたつくり方に加えて、試す中で見つかるものも楽しんでもらえたらと思っています。
色を変えたり、別の柄を重ねたりすると、同じ柄でも見え方が変わります。気になった組み合わせをもう少し試していくうちに、初めには思い描いていなかった柄ができることもある。柄をつくるというゴールは同じでも、そこへ進む方法は一つではありません。途中で見つけたものをきっかけに、つくりたいものが変わっていってもいい。そうやって自分で選び、発見しながらつくることも、デザインの面白さだと思うんです。
03CHAPTER回して止める、重ねてつくる
CANVASには、携帯で使うSLOTシリーズと、パソコンで使うLAYERシリーズがあります。気軽に試すか、じっくりつくるか。柄づくりの入り口として、二つの方法を用意しました。
CANVAS SLOTは、まず誰でもできることを考えたシリーズです。スマートフォンの画面で細かく柄を描いたり調整したりするのは、あまり向いていないんじゃないかと僕は思っていて。それなら、直感的に操作できる方がいい。そこで思いついたのが、スロットのように回して止める方法でした。
回して、止めて、また回してみる。ゲーム感覚で触っていたら、柄ができていた。そんな気軽さを入り口にしたかったんです。僕自身も、スロットで柄をつくるなんてやったことがなかったので、どうしたらできるだろうと考えながらつくってきました。

リールを回して止めながら、柄を探す
一方で、もっとじっくりつくりたい人もいると思います。そのためのシリーズがCANVAS LAYERです。考え方のもとにあるのは、色ごとに柄を刷り重ねていく、昔ながらの印刷の考え方です。LAYERでは、そのイメージで画面上の柄を一つずつ重ねます。下の柄が上の柄のあいだから見えたり、重ねる順番で見え方が変わったりする。その中で偶然できる表情が、結構面白いんです。

LAYERでは、地の色や柄を一つずつ選んでつくることも、用意された柄の色や大きさを調整することもできます。細い格子に太いストライプを重ねると、下の柄がどこから見えるのか。色だけでなく、重ねる順番によっても印象が変わります。

気になった柄を選び、色を変えてみる。前の方がよければ戻して、別の組み合わせも試してみる。その繰り返しで、自分は何が好きなのかも少しずつ分かってくる。専門の知識をすべて覚えてから始めるのではなく、まず触ってみられる場所にしたいと思っています。

オリジナルの生地をつくろうとすると、柄を考えるほかにも、いろんな準備が必要です。デザインを生地にするための知識や技術、つくる数量の条件、製作を引き受けてくれる工場。それぞれを揃えて、ようやくかたちにできます。僕自身、その仕事を長年してきて、つくりたいと思っても、すぐには始められない難しさを感じてきました。生地をつくることが特別に思えるのも、そうしたハードルがあるからかもしれません。
CANVASでは、その準備を僕たちが引き受けて、使う人が柄づくりを楽しめるようにしたいと思っています。必要な条件をアプリの仕組みに入れ、つくった柄を生地として届けるところまでつなぐ。工場を探したり、生産のルールを一から覚えたりする前に、まずは色や柄を選んで、自分の好きな組み合わせを試してもらえるように考えています。
これまでテキスタイルを見たり、買ったりするのが好きだった人にも、自分でつくる楽しさを知ってほしい。自分の手で選んだ柄が、生地になって届く。そんな体験を通して、生地づくりをもう少し身近に感じてもらえたらうれしいです。
04CHAPTER自分のものが届く
例えば、30個のデザイン案をつくり、その中から一つを選んで商品にすることがあります。この一つに絞る作業は、いつもすごく悩むんです。僕がいちばんいいと思って選んだ案でも、お客さんが同じものを好きになるとは限らない。ほかの案の中に、その人がもっと好きだと思うものがあるかもしれません。選びながら、全部届けられたらいいのになと思うことも、これまで結構ありました。
僕が選んだデザインを、一つの商品として届けることも大切にしていきたいです。そのうえで、選ばなかった案にもあった良さを、別の形で届けられないかと思っています。CANVASでは、お客さん自身が柄や色を選び、組み合わせを変えられる。僕とは違う選び方から、その人の好きな柄が見つかるかもしれません。
そして、画面でつくった柄を、生地として届けます。これまで僕は、自分でデザインしたものを見てもらい、買ってもらう仕事をしてきました。CANVASでは、培ってきた経験をアプリの仕組みに入れて、お客さん自身が選び、つくれるようにする。自分で選んだ色や柄を、実際に手に取れるところまでつなげていきます。
生地以外にも、つくるものに合わせた遊び方を考えています。柄を増やしたり、アプリを更新したりしながら、画面でつくったものを、いろんな形で届けられるようにしていきたいと思っています。
TRICOTÉの商品を楽しんでもらうことに加えて、僕たちが楽しんできたものづくりにも触れてもらえたらうれしいです。試しながら見つけた好きな柄が、自分の生地になって届く。CANVASで、そんなやり取りを続けていきたいと思っています。




