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Article: TRICOTÉのはじまり

TRICOTÉのはじまり

TRICOTÉのはじまり

編み機から、まだ見たことのないものを

ニットというと、セーターやカーディガン、靴下のような、身につけるものを思い浮かべる人が多いと思う。僕も、ニットメーカーの工場で、アパレル向けの生地を開発する仕事をしていた。

糸を選び、編み方を考え、機械を動かして生地をつくる。その仕事を続ける中で、同じテキスタイルでも、織物は暮らしのいろいろな場所に使われているのに、編み物は身につけるものが多いことが気になっていた。編み機を使って、服以外にも何かつくれないだろうかと考えていた。

2011年、OPTRICOでのTRICOTÉ初期展示。
2011年|青山 OPTRICO|TRICOTÉ初期展示

01CHAPTER編み物のその先へ

柔らかく、伸びる。服をつくるには、ニットのそういう性質が役に立つ。でも僕は、その長所から少し外れたものを試してみたかった。柔らかいものを硬くしたらどうなるか。薄いものを厚くしたらどうなるか。ニットらしいものを上手につくることより、ニットの機械で見たことのないものをつくることに関心があった。

だから、最初に商品を決めてからつくろうとは考えていなかった。まず素材を試す。その先に何ができるのかを見てみたかった。

2014年、工場にある編み機。
2014年|工場にある編み機

02CHAPTER柔らかさの反対側

そうして試したのが、ゴムの糸を生地全体に使って編むことだった。ゴム糸は、袖口や靴下の履き口など、部分的に締めたいところに使うことが多い。その糸を生地全体に使ったら、どうなるのだろう。自分でも、まだやったことがなかった。

できあがった生地で、まず面白いと思ったのは硬さだった。厚く、しっかりしていて、表面には凹凸がある。柔らかいニットとは反対の表情になっていた。

こういうものを探していたのだと思う。ニットの洋服でできることとは違う、ニットの機械だからこそつくれる、まだ見たことのないもの。あの生地を見て、編み機にはまだ別の使い方があると思えた。

もちろん、こういう試作はうまくいくものばかりではない。思い描いた通りに仕上がることの方が少ない。でも、やってみなければ分からないことの方が多い。数えきれないくらい編み地を試し、その積み重ねが、今では「この糸とこの編み方なら、たぶんこうなる」という自分の中のレシピになっている。

2011年、パイナップルバッグ。ゴム糸使用。
2011年|パイナップルバッグ|ゴム糸仕様

03CHAPTER一緒に試せる工場

ただ、TRICOTÉを始めようと思った一番大きなきっかけは、生地ができたことより、一緒につくりたいと思えるニッターさんに出会えたことだった。

いろいろな工場を訪ね、職人さんと話してきた。工場では設備を確かめるだけでなく、自分がこれからやりたいことを話す。相手がどんなことを考えているのかも聞く。同じ方向を向いてつくれそうかを、かなり大事にしていた。

そのニッターさんには、何度か編み地の試作を頼んでいた。「こんなのできますか」と聞くと、すぐにできない理由を挙げるのではなく、考えてくれる。「こうしたらできるかもしれない」「それならやってみようかな」。できる方法を探してくれる人だった。

ゴム糸を生地全体に使う話も、同じだった。機械にかかる負担や針のことを考えると、やらない理由はいくらでもある。それでも、どうすればできるかをまず考える。その人の姿勢は、僕自身のものづくりの考え方と近かった。

古い機械を大事にして、自分で手を入れながら使う職人さんにも惹かれる。機械と長く付き合い、まだないものを一緒に探してくれる。僕には、そういう人との仕事が大事だった。この人となら、まだないものをつくっていけると感じた。何度もやり取りする中で得た感覚で、理屈よりもフィーリングに近かった。

04CHAPTER好きなものを、編みからつくる

僕が編みにこだわっていたのは、一本の糸からオリジナルのものをつくれるからだった。素材を探して糸を選び、そこに編みの組織や柄を組み合わせる。その掛け合わせで、できるものが変わってくる。ゴム糸の生地を試したのも、自分の好きなものを素材から考えてつくりたかったからだと思う。

そんなものづくりを続けていくブランドだから、名前にも「編み」を残したかった。なるべくシンプルで、響きがよく、言いやすい名前がいい。ただ、英語のKNITやKNITTINGでは意味がそのまま伝わるので、編みを表す言葉でも、少し違う響きを探していた。昔から好きだった色使いや雰囲気もあって、フランス語の響きは僕に合っていたし、音のリズムも含めて、TRICOTÉという名前に落ち着いた。

ブランドを続ける中で感じるのは、好きなものをつくったり、こんなものが好きだと話したりしていると、近い感覚を持った人と出会うことがあるということ。そういう出会いが仕事につながることも何度もあって、フランス出身のデザイナーと仕事をする機会ができたのも、その一つだったと思う。一緒につくりたいと思えるニッターさんとの出会いも、そうだったのかもしれない。

振り返ると、ニットの機械で今までとは違う素材ができたことと、その可能性を一緒に試してくれる人に出会えたこと。その両方が重なって、2011年にTRICOTÉを始めることになった。

これからもTRICOTÉを通じて、僕たちの好きなものが、いろんな人の好きなものとつながっていくといいなと思う。そうやって、ブランドを好きになってくれる人も少しずつ増えていく。そんなブランドにしていきたい。

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